大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和53年(わ)226号 判決 1978年4月10日

主文

被告人を懲役一年に処する。

未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入する。

押収の散弾銃一丁、ライフル実包三発、散弾六発、薬きょう五発、火薬一瓶、火薬一袋を没収する。

訴訟費用中、証人乙山一郎、同丙川和男に支給した分は被告人の負担とする。

理由

罪となるべき事実

被告人は、

第一、法定の除外事由がないのに、昭和五二年四月一八日午後一時二五分ころ、京都市山科区上花山花ノ岡町三五の一番地株式会社京都東急インホテル一階カードルームにおいて、散弾銃一丁及び火薬類である三〇口径ライフル実包三発、四一〇口径金属製散弾実包六発、四一〇口径雷管付薬きょう一発、三八口径雷管付薬きょう四発、瓶入り無煙火薬約一八・五グラム、袋入り無煙火薬約五グラムを所持し、

第二、内縁関係にあった甲野花子(当時四〇年)が家出したため、その所在を捜していた際、同女の甥乙山一郎(当時三一年)らがその居所を隠しているとして憤慨し

(一)  昭和五二年九月二五日午前八時ころ、岡山市当新田二〇番地の一二、右乙山一郎方において、新聞紙で包んだ刀剣ようのものを携え、同人並びに乙山二郎(当時二七年)に対し「おどれらは女の居所を知っとるはずじゃ。知らん言うてもこっちには証拠がある。女と一緒になったとき、わしの小指をおとしたのを覚えとろうが。女をかくすとわしには恨みがある。今日中に女をださんと刀でいってしもうたる。それで三~四年わしが刑務所に行くのは覚悟じゃ、女を出さんとおどれら兄弟の片目をかたっぱしにつぶしたる。」等と語気荒く申し向け、もって同人らの生命身体に危害を加うべき気勢を示して脅迫し、

(二)  同年一〇月一一日午後九時三〇分ころ、前同所乙山一郎方に電話をかけ、同人に対し「おどれら、女の居所を隠すなら、これから行っていわしたる。行く前にお前の女房、子供はかわしとけ」等と申し向け、間もなく同所に到り、同人方表玄関戸を叩き、「こりゃ開けんか、花子を出すか出さんのか。女を出さんのならおどれの命を出すか」等と怒号し、もって同人らの生命、身体に危害を加うべき気勢を示して脅迫し、

たものである。

証拠の標目《省略》

法令の適用

被告人の判示所為中、第一の銃砲所持の点は昭和五二年法律五七号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号に、実包その他無煙火薬の所持の点は包括して火薬類取締法五九条二号、二一条に、第二の脅迫の各事実は刑法二二二条にそれぞれ該当するところ、判示第一の銃砲所持と火薬類所持とは一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条により重い銃砲所持の罪の刑で処断することとし、第一及び第二の罪につき所定刑中各懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により重い銃砲所持の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、同法二一条により未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入し、押収してある散弾銃一丁、ライフル実包三発、散弾六発、薬きょう五発、火薬一瓶、火薬一袋は判示第一の犯罪行為を組成した物で犯人以外の者に属しないから同法一九条一項一号、二項により没収し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して主文第四項掲記のとおり被告人に負担させる。

昭和五二年五月七日付起訴状公訴事実中、ライフル銃の所持を認定しなかった理由について

《証拠省略》によると、本件ライフル銃は撃発の機能があり、従って発射機能があるというのであるが、撃発機能と発射機能とは別個のものと解すべきものである。即ち、ライフル銃とは、銃腔に何条かの腔綫がきざんである銃で、弾体表面をこの腔綫に食いこませ、銃腔内を火薬ガスなどの圧力で前進させると、弾丸は回転を起し、弾頭を先にして銃口から発射される機能を有するものであるが、銃腔内で装弾内部の雷管に発火させる機能を撃発機能と呼び、この雷管の発火による火薬ガスの圧力で弾丸を前進回転させ銃口から発射させる機能を、右撃発機能を含めた広い意味で発射機能と呼ぶと解すべきである。そして前掲証拠及び押収のライフル銃一丁によると、本件ライフル銃は撃発発火装置の撃発機能に欠けるところがないが、遊底部分が正規の製造過程によらない不完全なものであるため、現実に弾丸が発射できるか或いは暴発して銃を破壊するかいずれとも決し難く不明であることが認められる。

ところで、本件ライフル銃の種類は証拠上不明であり(被告人はモシン・ナガン銃というが証拠上明白でない)、少くとも日本国内に同種の物の存在することの証明はなく、その設計図を入手することも困難であろうと推定される。したがって、本件ライフル銃に適合する遊底部分の製作は技術的に困難であろうと考えられる。即ち遊底の正確な長さ、遊底頭の突起部分の形状及び位置関係等を解明することが困難であり、この解明なしに、本件ライフル銃が暴発の虞れなく発射可能な遊底部分を製作することは不可能である。《証拠省略》によると、被告人は図鑑を調べ相当長期にわたって遊底頭の突起部の製作を試みたが成功しなかったことが認められる。

そうすると、本件ライフル銃につき「通常の修理」により弾丸発射機能を回復することの証明は不充分であり、したがって本件ライフル銃は銃砲刀剣類所持等取締法二条一項にいう銃砲に該当しないといわざるを得ない。

そこで被告人は本件ライフル銃の所持につき無罪であるが、判示第一の散弾銃一丁の所持と包括一罪の関係にあるとして起訴されたものと認められるから、主文で無罪の言渡をしない。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 川口公隆)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例